Wednesday, December 31, 2014

ポリス・ブルータリティとは何か? (In Japanese)

ここ数日風邪で寝込んでいて、更新ができなかったのです´д` ;笑
今回は、今アメリカ全土で議論を巻き起こしている、ポリス・ブルータリティ(Police Brutality)という概念についての導入をしていきたいと思う。アメリカで問題視されているポリス・ブルータリティに関しての説明をしている日本のメディアはほとんど見受けられないというのが現状である。マイケル・ブラウン(Michael Brown)事件でさえ、読売や朝日などの日本の大手新聞社は、大陪審判決後のプロテストの規模の大きさや過激さだけを切り取るという報道の仕方であったことが残念でならない。アメリカが抱える根本的な問題についての言及はなされず、大規模なプロテストという読者が飛びつきそうな話題を報道するという実にお粗末な報道の仕方であり、日本人の読者はこのポリス・ブルータリティの問題に関しての情報が日本の報道機関からはほとんど得ることができないという状況を実に残念に思う。そのため、このブログにおいて、21世紀のアメリカが直面しているポリス・ブルータリティと人種の問題に関しての情報を日本語でできるだけ提供していこうと考えている。

初めに、ポリス・ブルータリティ(Police Brutality)という用語について説明をする必要があるだろう。この用語は、直訳すると「警察による暴力」とでも訳せるのだろう。その語の意味する通り、このブログでは「警察による暴力」と人種との間の関係について分析していこうと考えているのだが、ずっと日本に住んできた日本人の方にとって「警察による暴力」というのは、実に馴染みのない用語のように思える。そのため、このブログでは、ポリス・ブルータリティという横文字を採用することにしている。このポリス・ブルータリティには、警察官による殺傷能力の高い武器などを使用しない物理的な暴行、例えば殴る蹴るなどの行為から、拳銃等による射殺などの暴力も含まれている。

このポリス・ブルータリティを理解するためには、まず、アメリカという銃社会を理解する必要があるだろう。アメリカでは年間で約10万人以上の人が銃で撃たれているという統計データがある。(“Just the facts: Gun violence in America”. NBC News. Jan 16, 2013) 一日換算にすると、平均300人がアメリカのどこかで拳銃での被害に遭い、そのうち約90人が命を落とすという計算だ。これがアメリカという銃社会である。自分自身もこの統計を見て驚きを隠せないのだから、日本にずっと在住の方の驚愕度と言ったらより凄まじいものがあるのだろう。2008年の銃による殺人事件の件数は、アメリカが9484件で日本が11件と差が歴然と表れている。もちろん、この比較は歴史や法律といったあらゆる文脈を無視しているため、特段意味はなさないのだが、少なくとも、日本人の方にとってみれば、アメリカという銃社会の現状を想像する手助けになるだろう。
では、なぜポリス・ブルータリティが今のアメリカで問題となっているのだろうか?確かに、銃による犯罪や殺人事件が横行する銃社会のアメリカにおいて、警察組織がそれらに対抗する抑止力として、殺傷能力の高い拳銃等を使用することは想像に難くない。修正条項第2条(the Second Amendment)で一般市民に銃の所有と一定の状況下での使用が認められているアメリカにおいて、銃が関わる犯罪に対しては、「目には目を、歯にはを」の原理に基づき、警察官独自の判断で、犯罪の対処に銃を用いるというのは実に論理的なように思える。
それにもかかわらず、なぜポリス・ブルータリティが今、アメリカ全土を巻き込むような議論やプロテストにまで発展している問題となっているのだろうか。それは、ポリス・ブルータリティの被害者の多くの場合がアメリカのマイノリティグループ出身、その中でも多くの場合が黒人であるということである。さらに言えば、今回のミズーリ州ファーガソンで起きたマイケル・ブラウン事件を始め、オハイオ州で起きたジョン・クローフォード三世(John Crawford III)事件、タミル・ライス(Tamir Rice)事件などの多くのケースで、被害者が非武装の黒人青少年であるということである。もちろん、最初に述べたように、ポリス・ブルータリティは武器などの使用のない物理的な暴力も含んでいる。例えば、先日大陪審で不起訴判決で幕を閉じてしまった、ニューヨークのエリック・ガーナー(Eric Garner)事件やオハイオ州で起きたタニシャ・アンダーソン(Tanisha Anderson)事件などがこの部類に属する。今回は、前者の銃などの武器によるポリス・ブルータリティに関して少し見ていくことにしたい。
ProPublicaが提供する分析データによると、黒人の若者は白人の若者よりも約21倍も警察官に射殺されるリスクがあるという統計分析がでている。2010年から2012年の連邦が提示するデータでは、15から19歳の黒人が警察によって殺される確率が100万人中の31.17人であるのに対し、同じ年齢層の白人は1.47人という明らかな差がこれらの統計データから見受けられるのである。同記事において、ニューヨーク州立大学(State University of New York)で刑事司法学(Criminal Justice)を教えているコリン・ロフティン教授(Dr. Colin Loftin)は、FBIが提供する警察官による殺人(homicide)はあくまでも最低限度の数値しか示されておらず、実際にどれだけより多くのマイノリティ出身の人々が警察によって命を奪われているのかを知るすべはないに等しいと述べている。
また、ハッフィングトンポスト(Huffingtonpost)のBlack Voicesという特集において、警察の取り締まりや警察官による殺傷能力の高い武器使用に詳しいミズーリ大学(University of Missouri)で犯罪学(Criminology)や刑事司法学(Criminal Justice)を教えているデイヴィット・クリンガー教授(Dr. David Klinger)によると、いわゆる「正当化されうる警察による殺人」だけがこれらの統計データに載り、正当化し得ない警察による殺人のデータはこれらの統計データには反映されず、また、政府もそれらのデータ全てを記録する努力をしていないと指摘している。また、USA Todayが提示するデータでは、警察官が関係した発砲・殺人事件のうち、約4%しかFBIのデータベースに報告されていないという統計データを示している。おそらく、警察官による射殺事件において、マイノリティ出身犠牲者の多くのケースが、この「正当化されうる警察による殺人」の部類からは除外され、統計データにも表れていないことだろう。これら全てを考慮すると、実際の統計データに含まれている、ポリス・ブルータリティのマイノリティ出身の犠牲者の数は草の根のレベルでは計り知れないということである。
これらの統計データで示されているポリス・ブルータリティや警察官による殺人事件における人種間のギャップの原因はなんなのであろうか。考えられる理由の幾つかを挙げるかとすれば、警察の軍事化、警察の銃使用の規制の曖昧さ、警察組織の構造など様々な問題が考えられるのだが、大きな問題はやはりマイノリティ、特に黒人と犯罪とを無意識的に、かつ瞬時に結びつける行為であるクリミナライゼーション(Criminalization)や黒人=犯罪者というバイアスの刷り込みであるインプリシット・バイアス(Implicit Bias)などが根本的な原因であると考えられる。このポリス・ブルータリティが起こりうる原因への考察は、今後自分が勉強を進めていくにつれて、随時考察の記事をあげようと思っている。しかしながら、現在自分の見解から考察するのであれば、このクリミナライゼーションやインプリシット・バイアスがポリス・ブルータリティの原因に大きく関係していることは間違いない。この二つに関しても、随時記事をあげて詳しく考察していきたいと思っているのだが、今回の記事では導入として、ポリス・ブルータリティが、制度的な人種差別的刷り込みが引き起こす、マイノリティ、特に黒人に向けられる暴力であるということが理解できれば幸いである。これを理解することで、ファーガソンをはじめ、アメリカ全土で行われているプロテストの意味が少しずつ理解できてくるだろう。
この記事の最後に、ポリス・ブルータリティに関して3つだけ付け加えたいことがある。もちろん、この3点に関しても、随時別の記事で詳しく考察していきたいとは思っているのだが、少しここでも触れておくことにする。1つには、歴史的に見ると、ポリス・ブルータリティが突如として21世紀に問題視され始めたわけではないということである。歴史を紐解くと、ポリス・ブルータリティという問題は常にアメリカ社会に存在し、公民権運動などの時代、それよりももっと前の時代から、ポリス・ブルータリティは存在しており、21世紀に入って突如として問題になったわけではないということを知っておく必要がある。2つ目に、往々にして、ポリス・ブルータリティでは、事件を起こした警察官は不起訴処分で終わることが多いということである。マイケル・ブラウン事件や先日判決の出たエリック・ガーナー事件でも、警察官は不起訴処分で終わるという結果になった。最後に、これは重要で基礎的なことかもしれないが、ほとんどの警察官は、自分の職務を全うしており、尊敬に価する人々であるということを理解する必要がある。警察の制度的な問題や人種差別的な刷り込みが制度化されているのが問題なのである。この点を見過ごすと、連日起きている問題が、単なる黒人と警察の対立という二項対立でもって理解されかねない。問題はもっと深いところにあるということを理解することで自分も含めこの問題のより根本的案問題点が見えてくるだろう。これが、ポリス・ブルータリティと人種の関係の導入である。

<日本語の参考資料/ Reference in Japanese>

<英語の参考資料/ Reference in English>

  • “Just the Facts: Gun Violence in America.” NBC News. 16 Jan. 2013. Web. 27 Dec. 2014. <http://usnews.nbcnews.com>.
  • Gabrielson, Ryan, et al. “Deadly Force, in Black and White.” ProPublica. 10 Oct. 2014. Web. 27 Dec. 2014. <http://www.propublica.org>.
  • "21 Numbers That Will Help You Understand Why Ferguson Is About More Than Michael Brown." Huffingtonpost. 22 Aug. 2014. Web. 28 Dec. 2014. <http://www.huffingtonpost.com>.
  • Johnson, Kevin, et al. "Local Police Involved in 400 Killings per Year." USA Today. 15 Aug. 2014. Web. 28 Dec. 2014. <http://www.usatoday.com>.

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