Saturday, January 10, 2015

セルマ / SELMA (In Japanese)

さて、今回は映画『セルマ/ SELMA』の紹介です。この映画の日本での公開はまだ決まっていないみたいですね。一足先に公開されたアメリカにいるので、見てきちゃいました。おそらく、この映画が幾つかの賞を獲るのは間違いないと思うので、日本でも遅かれ早かれ公開されるでしょう。一言で感想を述べるとするならば、この映画は過去と現在、そして未来を繋ぐ映画であると言えるでしょう。





この映画の公開を楽しみに待ちわびていました。というのも、自分の専攻であると同時に、アメリカでアフリカン・アメリカンスタディーズの修士課程をするきっかけを与えてくれた50・60年代アメリカの公民権運動が舞台だからです。そして、この映画の主人公は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King, Jr)です。キング牧師は、“I have a dream”のスピーチでお馴染みの牧師であり、公民権運動の代表者として、多くの人が中学校の英語の教科書で、一度は学んだことのある偉人ではないかと思います。少なくとも、私の中学校はそうでしたし、私の世代の人は中学・高校で少し習っているのではないでしょうか。こんなに知名度も名声もあるキング牧師ですが、アメリカで今回のような規模での映画の主人公になるのは初めてと言っても過言ではないしょう。自分の好きなトピックなので、あまり話しすぎるとネタバレになってしまいそうなので、あらすじとキャスト、そして簡単な感想を少し綴らさせていただきます。


主人公キング牧師を演じるのは、デイビット・オイェロウ(David Oyelowo)です。先日公開された SF作品のInterstellerにも出演している黒人の俳優さんです。他にも、2013年にアカデミー賞で多くのノミネート及び受賞をした映画Lincolnや私の大好きなエマ・ストーン(Emma Stone)が主演の映画The Helpにも出演していました。オイェロウはイギリス出身なのですが、アトランタ出身のキングのアクセントやしゃべり方に随分近いしゃべり方で役を演じていて、(自分が英語のネイティヴじゃないからかもしれませんが)まったく違和感を感じさせませんでした。まあ、早くからハリウッドの舞台等で活躍していたというのもあるのでしょうか。オイェロウ演じるキング牧師が、1965年に南部の州の黒人が選挙で投票することを可能にするため、セルマからモントゴメリに行進をするというのが大まかなあらすじです。

なぜ南部の黒人たちは選挙で投票できなかったのでしょうか?少し歴史的な背景を簡単に説明するとするとしましょう。1865年に南北戦争(The Civil War)が終戦したのちに、アメリカ合衆国憲法修正第15条によって、奴隷から解放された黒人男性たちは体裁的には選挙権を得ることができました。しかし、黒人人口の多い南部において、次第に黒人の選挙を妨げるジム・クロウ法が次々にできていき、黒人たちは投票するための登録ができなかったという歴史的背景がありました。そこで、尽力したのがキング牧師やその他多くの公民権運動家たちです。映画の序盤でも、女性が投票するための登録をするシーンがありました。審査する役所の人は、その黒人女性が投票するために読み書き、そしてアメリカの憲法の基礎知識があるかどうかを尋ねるのですが、役所の白人男性は誰もわからないような質問を投げかけます。「アラバマ州の議員全員の名前を言ってみろ。」という質問を最後に、その女性の投票権は拒否されました。そういえば、以前に授業で似たような話を聞いたことがありました。それは19世紀の後半の話で、ある黒人男性が登録しに役所に行くのですが、「このボウルの中の泡の数を答えろ。」という実に馬鹿げた質問を白人の役人に出され、投票権を拒否されるというケースもありました。半世紀以上も経っても全く南部では状況は変わっていなかったことになりますね。

この映画の製作は一時打ち切られそうになることもあったそうです。なんでも、資金的な問題とかに直面していたそうですが、ブラッド・ピットの所有する映画会社の後押しや、黒人女性初のミリオネアと呼ばれているオプラ・ウィンフリーの支援もあり、今回このような映画というちゃんとした形になったようです。ちなみに、オプラ・ウィンフリーはプロデューサーとしてだけではなく、アニー・リー・クーパー(Annie Lee Cooper)の役としても出演していました。

個人的な感想ですが、この映画は映画としても、そして公民権運動を概観するのにも非常に優れた映画だと思いました。見ていて、喜怒哀楽の全てを引き出させてくれるような、感情に訴えてくる映画になっていると思います。おそらく、最初にも述べましたが、幾つかのビックタイトルを受賞するのではないかと確信しています。また、私の最近お気に入りの女優であるテッサ・トンプソン(Tessa Thompson)も出演していて、彼女の美しさをまたスクリーンで拝見できて満足でございます。笑先日、公開されたDear White Peopleというキャンパスでの黒人の大学生活を描写した映画でも出ていて、この映画も非常に面白かったです。



さらに、この映画をより身近に感じたのは、映画でも出てくるジョン・ルイス(John Lewis)に数ヶ月前に実際にお会いしたというのも、この映画をより素晴らしく感じた理由の一つでしょう。彼は当時はSNCCという公民権団体に所属していて、現在では30年近くアメリカの国会議員をしている方です。映画のセッティングが50年も前のことなのですが、実際にそういった運動に参加・率いた人に実際にお会いしたというのは、過去が現在にしっかりとつながっているんだということを実感できる瞬間であり、この映画はその繋がりをより濃く私に思い出させたんだと思います。


また、過去と現在を繋ぐといえば、映画の後半で繰り広げられる、警察による暴力であるポリス・ブルータリティが非常に明瞭かつ激しく描かれていたところです。50年も前の出来事にもかかわらず、ここ数年のポリス・ブルータリティの問題を見ていくと、実際にはあまり変わっていないということがよくわかります。先日のファーガソンでプロテストを鎮圧するために警察は、催涙ガス、馬などを使用しました。また、自分が参加したオハイオ州のコロンバスでの行進においても、警察が馬に乗って登場し、プロテストをしている人々を威嚇するという状況を目にしています。それを考えると、映画で描写されるようなポリス・ブルータリティが、現在まで脈々と受け継がれていると感じさせる映画だったと思います。ポリス・ブルータリティが渦中にあるアメリカにおいて、この映画は、その問題を歴史的な観点から再考する良い機会を我々に与えてくれている気がします。過去と現在、そして未来を繋げるような映画になっています。ぜひぜひ、みなさんに見ていただきたい作品です。



<English References>

・Official Site: http://www.selmamovie.com

・Variety: http://variety.com/2014/film/reviews/film-review-selma-1201354433/

・Time: http://time.com/3645651/how-selma-reclaims-hollywoods-sanitized-versions-of-martin-luther-king-jr/

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